心造少女

これは、少女が〈解放〉へと至るまでの物語だ。

これは、少女が〈半身〉を取り戻す為の物語だ。

これは、少女が〈過去〉に決着をつける物語だ。

これは、少女が犯した〈罪〉の後始末の物語だ。

2019/08/09 コミックマーケット96〈南ス-31b〉頒布作品

あらすじ

陸を食らい人を殺す深海棲艦の跋扈により、生存圏を狭められた人類は
艦娘という有機アンドロイドを建造し、生存競争を切り抜けていた。

少女の象形に船の声と呼ばれる記録情報を流しこむことで完成する人型兵器。
改良を重ねた彼らは、いつしか人間的情緒を獲得するまでに至っていた。


工業製品である艦娘には、一定の確率で不良品の非適性艦娘が入り混じる。
様々な営利目的によって、本来あるべき海上ではなく人類社会へ流出する非適性艦娘は、
悪性変異体と化して破壊と災厄を撒き散らすリスクがあった。

かくして、災厄を未然に防ぐ為、非適性艦娘を調査・追跡・回収・解体する部隊、
廃艦掃討隊は結成された。

だが、その仲間殺しの部隊に所属するのもまた、非適性艦娘として生まれ落ちたか、
あるいは傷痍で退役を余儀なくされて、改造か解体かを迫られた艦娘たちだった――


風の家に住む記憶喪失の少女・カレンが、
廃艦掃討隊に所属する少女・時津風と風車の中で出会った時、
凍りついていた運命の歯車は、鼓動の音とともに動き出した。

そして、少女たちは踊り出す。
それぞれの物語に、ふさわしい〈結末〉に辿りつく為に。

世界観

100年前に発明された液体記憶媒体によって、記憶こころの完全な外部化が実現した近未来。

ある日、水を記憶媒体へと変換し、また物質を分子レベルで操作する微細資源フェアリースケイルと呼ばれる極小機械群ナノマシンが海洋上に流出し、海はたちまち巨大な記憶媒体となった。

記憶媒体と化した海から〈声〉を汲み上げた人類は、
広大な海に揺蕩う何十億年分の膨大な星の記憶の存在に気がつき、
それは後に、第二次情報革命と呼ばれる世紀の大発見となった。

今日では共有の記憶コモンメモリと呼ばれるその情報資産を抽出・解析・編纂・記録し、
人類が利用し易い形に索引化する為に造られた超高度AI・妖精式解析機関フェアリーエンジン
そして妖精式解析機関によって造られた、微細資源自律制御コンソール・妖精

語り部だ。〈海の記憶〉を余すこと無く記述し、整理し、体系化し、掌握する為に、人類が考えだした最も遠回りで、最も確実な方法。幾億年の歴史を語らせ、紡がせるために生み出された存在、それが妖精だ。

微細資源と妖精の発明は、元々は全て、過去を探る試みの上に成り立っている。私たちは過去を知ることで、初めて前へ進むことが出来るんだ。――そう、ちょうど私たち艦娘が、過去を得ることで目覚め、今を歩むことが出来るようにね。

扶桑記念学校の、とある歴史学講師

そうした妖精の恩寵により、人類文明はこれまでにない飛躍的な発展を遂げた。
あの文明の破壊者、深海棲艦が海の底から現れるまでは――

登場人物

カレン
The Fire Heart

「わたし、頑張るから。
 勉強も、お仕事も……!」

大規模風力発電農場ウィンドファーム〈風の家〉に、老婆・ユキと二人きりで暮らしていた記憶喪失の少女。

吃り症で赤面症、愚鈍で大食らいな彼女は、いつもユキに叱咤されながらも、幸せな日々を送っていた。そんな彼女の左手の薬指には、謎めいた刻印TES9がある指輪が填められている。

いつかこの指輪が、喪われた過去から運命の出会いをもたらしてくれる。 そんな夢を懐きながら、カレンは今日も風車の回転に合わせて踊る。

その正体不明の心臓は、彼女に途方もない無限のエネルギーを供給する。

時津風
The Nine Lives

お姫様サンドリヨンを舞踏会に誘う、魔法使いだよ」

廃艦掃討隊所属。陽炎型駆逐艦10番艦・時津風の〈船の声〉を持つ艦娘。〈TES8〉の刻印の指輪を持つ。その全身には9基の補強増設の孔がある。

いつもニヤニヤ笑いを浮かべている奔放で淫蕩な生まれながらの妖婦ナチュラルボーンハーロット。そして究極の標的艦デコイ。どんな痛みも苦しみも、大したことないピース・オブ・ケーキと笑い飛ばし、いかなる刃や弾丸さえも、彼女のその笑みを壊すことはできない。

カレンに強い関心を持ち、いつもその周りを子犬のようにくるくると走り回る。 彼女がその笑顔の裏に何を隠しているのか、それはまだ、誰も知らない。

初風
The Ironical Heart

「私は多分、アンタたちを守りたいとか、
 そんなことを考えてるのよ」

陽炎型駆逐艦7番艦・初風の〈船の声〉を持つ艦娘。〈TES7〉の刻印の指輪を持つ。

シニカルでアイロニカル。けれどここ一番でキレやすく、気に入らないものはその黒鋼の手アイアンハートでぶん殴る。

首から下を黒曜石のような滑らかな黒い肌に換装し、残された数少ない生身の舌を、大量の紫煙パープルヘイズで燻す。

どうやらカレンのことを知っている。それは彼女の過去の出来事に関係があるらしいが――

雪風?
Ice Nine

「雪風はですね。
 この戦争ゲームを終わらせようと思ってます」

陽炎型駆逐艦8番艦・雪風の〈船の声〉を持つ艦娘。〈TES8〉の刻印の指輪を持っていたはず。

天真爛漫で掴みどころがなく子供っぽい。けれど異様に察しがよく、気がつくと周囲を巻き込んで空気を変えてしまう気配り屋だったりもする。時津風にとっては双子の姉のような存在。

微細資源の天敵である「アイスナイン」をその身に宿しており、周囲には妖精が一切寄りつこうとしない。

第16駆逐隊最後の一人。横須賀鎮守府のクーデター以来、ずっと行方不明だったが……。

長月
Peashooter

「すまん。たぶん、私はまた、
 すごく変なことを言った。忘れてくれ」

廃艦掃討隊所属。睦月型駆逐艦8番艦・長月の〈船の声〉を持つ艦娘。その手足には強力な電磁場を放つ消磁艤装が搭載されている。

武人のような口調で、見た目通りの仏頂面の堅物。
面倒見がよく、ここぞという時の行動力を持ち頼りがいがあるが、本人は自分の能力に今ひとつ自信がない。似た匂いのするカレンには親近感を抱く。

酒好きだがそんなに強くない。吐いてすっきりしたらまた呑み出す。睦月型はこれだから、とは友人の談。

任務遂行中に消息不明になった姉妹艦、皐月の行方を探している。

由良/夕張
SwitchBrain / ScareCrow

「ねえ、どう?」
「夕張の焚きつけには、耳を貸さないで」

廃艦掃討隊所属。長良型軽巡洋艦4番艦・由良の〈船の声〉を持つ艦娘。 ……と、夕張型軽巡洋艦・夕張の艦娘、だったもの。

由良の拡張された生体人工脳髄に、現実の肉体を捨て電子構成体となった夕張を棲まわせている。優しい由良と気狂いの夕張。夕張の気分次第で肉体の主導権が切り替わる、文字通りの二重人格スウィッチブレイン

廃艦掃討隊では夕張の行き過ぎた技術力を用いて、工作艦、及び情報収集艦としての八面六臂の活躍を見せる。何故夕張が由良の頭の中から出ていこうとしないのか、それは廃艦掃討隊の七不思議の一つ。

青葉
Teacher

「だから私はこの仕事を、
 自分に与えられた試練だと思っている」

廃艦掃討隊所属。改古鷹型重巡洋艦一番艦・青葉の〈船の声〉を持つ艦娘、……になるはずだったもの。

存在そのものが番狂わせの大失敗。注ぎ込まれる船の声の取り違えにより、本来は泡となって消滅するはずが生き残り、その特異性は彼女に仲間殺し部隊への適性を示した。

狼の牙を思わせる右腕の義手で、数多くの非適性艦娘を狩ってきたベテラン。だが性格は至って温厚かつ論理的で紳士的。誰もが彼女と話していると、いつの間にか人生を省みさせられる。とうとうついたあだ名が〈教官ティーチャ〉。

教導者として、カレンの行く手を導く役割を担う。

不知火
Black Dog

「貴女は私を恨んでいますか、初風」

陽炎型駆逐艦2番艦・不知火の〈船の声〉を持つ艦娘。〈TES2〉の指輪を持つ。

旧横須賀鎮守府の最後の秘書艦。自身の感情を表に出さず、いかなる命令にも従い、淡々となすべきことをなし続ける鉄面皮。その様は〈猟犬ブラックドッグ〉と揶揄され、恐れられていた。

彼女が持つ究極の迷彩艤装は姿、声色、仕草、印象だけではなく、目に見えるものも見えないものもあらゆる全てを欺き、騙し通す。

親潮
Undine

「かわいい妹の悩みに、何かヒントを
 あげられたらと思ったんですけど」

陽炎型駆逐艦4番艦・親潮の〈船の声〉を持つ艦娘。〈TES4〉の指輪を持つ。

旧横須賀鎮守府の元秘書艦。生真面目さと柔和さを共存した彼女は、上三人の姉たちからの無理難題を矢面に立って受け流し、妹たちに慕われていた。

彼女の持つ生体艤装は微細資源を含む水を自在に操作することができる。ただし、氷の種アイスナインのようにその中身にまで手を加えることはできない。

?????
Gravity Device

「ちちちちちちちちちちちち」

カレンたちの行く手を阻む、黒い潜水艦。

彼女が何者か。
「そんなの誰も知らないし、知ったこっちゃないわ」

曙/皐月
Omphale / Argus

「かわいいパンツだね、アライグマ?」
「パンダよ」

綾波型駆逐艦8番艦・曙の〈船の声〉を持つ艦娘と、睦月型駆逐艦5番艦・皐月の〈船の声〉を持つ艦娘。廃艦掃討隊所属。皐月は見張員の眼を、曙は艦艇修理施設の糸を持つ。

これまでに数々の任務で幾度となく困難を乗り越えてきたベテランのツーマンセル。
だが任務の途中、彼らは高度一万メートル上空を飛ぶ航空機ごと、その消息を絶った。

用語集(50音順)

氷の種 アイスナイン

微細資源を自在に書き換え、破壊してしまう性質を持つブルーボックス。微細資源文明を崩壊させる銀の弾丸。水族館はこれを封じる目的で設立された研究機関とも言われている。

その元となる物質は、実は異世界からの訪問者によってもたらされた。

〈赤の女王〉仮説 あかのじょおうかせつ

進化に関する仮説の一つ。

「赤の女王」とはルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する人物で、彼女が作中で発した

その場にとどまるためには、It takes all the running you can do,
全力で走り続けなければならないto keep in the same place.

という台詞から、種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならないことの比喩として用いられている。

出典「赤の女王仮説 - Wikipedia」

水族館 アクアリウム

正式な名称は「ヨコスカ海洋技術研究所」

妖精機関と海色機関の合同で設立された、実戦的微細資源技術の開発研究所。人類の水際防衛の最後衛。技術者たちの楽園。艦娘の製造・改造や艤装の開発・改修の大元となる技術研究、鹵獲した深海棲艦の解析はすべてここで行われている。

悪性変異 あくせいへんい

艦娘の肉体を構成する微細資源が乱れ、深海棲艦に似た存在へと変えてしまう現象。悪性変異した艦娘は理性を失い、破壊を撒き散らす災厄となる。

変異する条件は2つ。

艦娘の心身がひどく傷つけられること、
そして傷つけられた艦娘が、一つの強い感情を抱くこと。

液体記憶媒体 えきたいきおくばいたい

100年前に発明された、文字通り液体に対して大容量の記録を可能とする技術。これによって人類は、あらゆる情報機器の極小化を実現した。

はじまりの5隻 オリジナルファイブ

人類が作り出した海上歩兵・艦娘の中で一番最初に量産体制が確立した5隻の艦娘、吹雪・叢雲・電・五月雨・漣のこと。

大規模風力発電農場〈風の家〉 かぜのいえ

日本列島各地に存在する深海棲艦災害によって打ち捨てられた地域を、国営の大規模な穀倉地帯と風力発電所に変えたものの一つ。東北地方の太平洋沿岸部に位置している。輸送業者の間では「魔女」が住んでいると噂されている。

艦娘 かんむす

舟を監みし少き女、――艦船少女。深海棲艦災害に対応する為に作り出された生体型自律機械の海上歩兵。少女を象った素体に〈船の声〉という記録情報を注ぎ込むことで完成し、個人艦艇兵装・艤装とともに海上を駆け抜ける戦乙女たち。

艤装 ぎそう

艦娘だけが使用することを許された個人艦艇兵装。過日の戦闘艦艇が使用していた火器兵器を象った妖精の加護を受けた武装。艦娘たちは通常、この艤装をアタッチメントの形で着脱し、マニピュレータを介して用いる。

霧の艦隊 きりのかんたい

深海棲艦災害の黎明期に現れた謎の異世界艦体型ヒューマノイドの一派。微細資源文明を遥かに超える圧倒的な兵力によって艦娘・深海棲艦の双方に壊滅的な打撃を与えた後、去った。

重力素子 グラヴィティデバイス

深海棲艦の艦載機から採取されたブルーボックスの代表格。自由自在の重力制御を可能とする技術で、輸送機器などに利用されている。

共有の記憶 コモンメモリ

海から発見された、地球が持つ膨大な記憶。天然資源の所在、地殻・気候変動や星々の運行の記録、生命の秘密に関する手がかり、人類史上の隠された真実が眠っているものと言われているバベルの図書館。

人類はその空き領域を利用して、広大なネットワークを築き上げている。「コモンスペース」はコモンメモリ上で構築された、世界規模の情報交換のインフラストラクチャの一つ。

紺碧の会 こんぺきのかい

退役した元鎮守府指揮官・技師、または艦娘製造や海上輸送といった鎮守府と商業的関係を持つ企業組織、深海棲艦災害の被災支援団体などの合同出資によって設立された財団法人。

鳥籠男 ジェイルマン

国外を本拠地とする非合法の艦娘売買組織〈ジェイルハウス〉の大元締めの男。はじまりの5隻の1隻を〈秘書艦〉としているらしい。

高高度飛行船・シトゥルイーユ

廃艦掃討隊に与えられた空の船着き場。鎮守府にあるものは一通り揃っている。基本的に成層圏から降りてくることはなく、乗組員はグラヴィティデバイスによって自在に空中を移動するエレベーターによって昇降する。

深海棲艦 しんかいせいかん

人類の天敵。妖精の宿敵。艦娘の怨敵。

第二次情報革命後に現れた文明の破壊者。海の底より現れて人類とその被造物を狙って執拗な攻撃を加える埒外の獣。人類文明の水際に甚大な被害をもたらした。深海棲艦の登場により、人類の地球外進出は数百年遅れることになったと言われている。

だが海色機関による海上防衛の安定運営とブルーボックスの発見により、単なる脅威として以外の評価を受けるようになっている。

生体艤装 せいたいぎそう

本来はアタッチメント式で着脱可能な艤装を、生体部品で構築し、艦娘の体内に直接埋め込んだもの。艦娘の飛躍的な性能向上を目的としたものだが、その製造難易度の高さから量産化が見送られ、技術開発は通常の外挿艤装の性能向上方面へシフトした。

その為、海色機関の認可の下で正式採用されているのは、陽炎型駆逐艦の雪風、天津風、時津風と島風型駆逐艦の島風のみである。

生体型自律機械 せいたいがたじりつきかい

艦娘などに代表される、微細資源を素材として製造された自律機械のこと。通常の機械式自律機械よりも高価な維持費がかかる。

第二次情報革命 だいにじじょうほうかくめい

液体記憶媒体の発明と、その後の「共有の記憶コモンメモリ」の発見といった人類史上の出来事を称した言葉。

鎮守府 ちんじゅふ

深海棲艦が現れてから程なくして、人類の水際防衛の最前線に設けられた海上防衛施設、及びその運営組織。西は日本列島・ヨコスカ。東は北アメリカ大陸・サンディエゴに、その最初の施設が建造され、太平洋上に発生する深海棲艦からの侵略に対応した。

TLC てぃーえるしー

鎮守府や海色機関などとも繋がりが強い、世界最大の海上輸送企業の一つ。最近では大規模航空輸送計画の実現の為、水族館との技術開発の協力関係を結んでいる。

人類未解明物質 ナノマテリアル

深海棲艦災害の黎明期に現れた「霧の艦隊」を名乗る謎の艦船型ヒューマノイド。彼らが残した「模型」から採取された、微細資源文明を終わらせる妖精殺しアンチフェアリーの物質。

廃艦掃討隊 はいかんそうとうたい

艦娘の悪性変異が海上ではなく、陸上で発生した場合の甚大な被害に備えて、それを未然に防ぐことを目的とした妖精機関の直属部隊。メンバーは非適性艦娘か、退役艦娘で構成されている。非適性艦娘の調査・追跡・回収・解体の4つの業務を担う。

微細資源 フェアリースケイル

液体記憶媒体技術によって生み出された微小機械群。有機物・無機物を問わず、物質の分子レベルの合成や分解を可能とし、艦娘などに代表される生体型自律機械や、彼らが扱う艤装の類は、すべてこの微細資源の集合体で構築されている。

妖精式解析機関 フェアリーエンジン

二次情報革命により巨大な液体記憶媒体と化した海から、膨大な情報資源を抽出する為に人類が考えだした最も遠回りで、最も確実な手段。幾億年の歴史を語らせ、紡がせるために作り出された、超高度人工知能。

海から汲み上げた情報を抽出・解析・編纂・記録する機構。ただそれだけを、ひたすらに、繰り返し続けるだけの機械。深海棲艦が現れるはるか以前から、その四つの迂遠な作業を繰り返し続け、幾度となくその機能を改良され、拡張され、革新されたその機械は、やがて世界で唯一の、最も偉大なる情報処理能力を持つようになっている。

船の声 ふねのこえ

コモンメモリから抽出される、過日の戦闘艦艇の記録の集積体。

人工知能産業がまだ黎明の頃「フレーム問題」という厄介な課題が、技術者たちの頭を悩ませた。それは、人工知能が物事を『思考』するにあたって、それに関連して起こりうる全ての現象を含めて、無限処理に陥ってしまうというものだ。多くの場合、それは人工知能が「無視してよい事象」を選別できないことから生じていた。

艦娘の祖型となったアンドロイドも当然黎明の時期にこの問題に直面し、そして、 それを解決する手段として採用されたのが、「船の声」だった。艦娘の自我は、ハードウェアとしての肉体に宿る基礎OSに対して、海から抽出された 「船の声」が流し込まれることで形成されている。その艦船の記憶は艦娘にあらゆる経験的知慧を刷り込み、戦場における複雑な取捨選択、「戦術判断」を可能とした。

だが、そこから副次的に発生した艦娘の人格はいわば、二つの魂が混ざり合うことで偶発的に生じるものであり、その乱数を制御する術を未だ人類は持ち合わせていない。

深海棲艦由来技術 ブルーボックス

深海棲艦が人類の技術を模倣する際に、その仕組みを理解するのではなく、出力結果だけを再現することで生み出されてしまった人類未到達の技術。

最たる例は「たこ焼き」と称される深海棲艦の艦載機で、鹵獲して調査した結果、プロペラやジェットエンジンに依らないその飛行は、〈重力制御〉を可能とするブルーボックスによってもたらされているものと判明した。

このブルーボックスの発見以後、深海棲艦は単なる害獣ではなく、貴重な技術的資源の源泉とみなされるようになった。

海色機関 みいろきかん

生体型自律機械の運用管理統括機構。元々は妖精機関の下部組織だったが、世界中で激甚化する深海棲艦災害への包括的な対応を試みる為、各国の艦娘を用いた海上防衛組織が統合され、現在の形に落ち着いた。

妖精機関が研究者の為の学術的互助組織であるならば、海色機関は軍人の為の戦略的提携組織である。その考え方、行動理念は妖精機関とは根本的に異なっている。

妖精機関が艦娘との共生を主眼にその生態を研究し、より豊かな未来を講じることを存在目的とするのに対して、海色機関は艦娘の運用を主眼にその行動を統制し、より確かな現在を保持することがその存在目的である。

妖精 ようせい

艦娘と同じ微細資源で構成された肉体を持つ小人。その正体は、微細資源制御技術の自律管理コンソールである。彼らは無数の微細資源に対して働きかけ、それらを統合し、制御し、操作することで様々な公共活動を人類に成り代わって実現している。

そうした優れた能力を持つ彼らだが、個々に複雑な抽象思考を可能にする程の処理能力は持たされていない為、自我や意志といったものはないものとされている。

妖精機関 ようせいきかん

生体型自律機械の製造保守管理機構。元々は妖精式解析機関を用いたコモンメモリからの情報資産抽出と、その研究を主目的とする学術機関だった。微細資源、妖精式解析機関、妖精、艦娘、艤装、そしてブルーボックスの発見と、人類文明に多くの恩寵をもたらした。

袂を分かたった海色機関の所属員からは、妖精のご託宣の言いなりになる占い師たちと揶揄されることもある。

妖精炉 ようせいろ

周辺の微細な資源を利用し、合成 して、自己複製する性質を持たされている微細資源は、放っておけば少しずつ増えていく。故に、微細資源にはある一定の領域において十分な量が確保されると、自己複製に依る増殖をやめるように安全装置がかけられている。 妖精炉は簡単に言えば、この安全装置を外すものである。

いわば万能の工房。艦娘の建造も、艤装の開発も、この妖精炉なくしては成り立たない。妖精炉は重要な戦略的装置であり、これ を私的に占有・利用することは固く禁じられている。その為、妖精という自律管理コンソールを介してのみ、その制御が認められている。

人工島・ヨコスカ

深海棲艦災害が発生するはるか以前から存在した、妖精機関の観測装置が置かれていた施設。海面上昇や地盤沈下、そして横須賀鎮守府の妖精炉崩壊事件によって一度消失し、その跡地に再建された世界でも有数のメガフロート。

フロートの中心にはヨコスカ海洋技術研究所、水族館がある。

過日を告ぐ者 ライカ・チャイルド

艦娘たちの別称。

過日の戦闘艦艇の記憶を吹き込まれた彼らが、過去の出来事を昔を懐かしむように語り合う様子スピーク・ライク・ア・チャイルドから、いつしかそう呼ばれるようになった。

水面滑走機構 レイノルズ

艦娘たちがその両足に履いているスケート靴のような装備。ダイラタンシー性質を操作し、液体を固体のように振る舞わせるブルーボックス。これによって艦娘たちはまるでフィギュアスケートのように海面上を自在に滑ることができる。

艦娘製造・運用の基本的原則 レギュレーション

妖精機関が提唱し、海色機関が承認した文字通り艦娘を製造、運用する際に参照されるガイドラインにしてレギュレーション。艦娘に関わるものが「レギュレーション」と口にすれば、多くの場合がこれを指す。

内容は、「赤の女王仮説」に基づいた深海棲艦の学習変異による際限のない軍拡競争を避ける為、その交戦に用いる戦略・戦術や技術に、一定の制限を設けるというもの。深海棲艦の過剰進化による致命的事態を先延ばしにする為の、妖精との約束。

書籍情報

心造少女4 - Phoenix hjerte fører piger og historier til befrielse.

2019年8月9日コミックマーケット96 最新刊
頒布価格2,500円 / 書店委託3,086円 / 電子版500円
文庫484頁 / 著:妹尾ありか / 表紙:裏方(Endsville

カレンは自分の心臓に纏わる過去の話を初風から聞かされる。その因縁がまだ、集結していないことも――。

抽出した曙の記憶から、違法改造艦娘グループ「テセウス」の宣戦布告を受けた廃艦掃討隊は、彼らによる元提督の「凍殺」事件の捜査と、気象制御システム「アイテール」へのテロ計画阻止の為、メンバーを総動員する。

かつての自分――天津風と、今の自分の間に横たわる溝がもたらす焦燥に苛まれながら、カレンはなぜか、時津風に誘われて内陸の街に遊びに出る。

『禁じられた力』を持つ艦娘たちの戦いを描くテクノスリラーSF、第4章。そして物語は最終局面へ突入する!

心造少女1 - Phoenix hjerte gør en pige historie.

2016年12月29日コミックマーケット91 既刊
頒布価格1,500円 / 書店委託2,314円 / 電子版0円
文庫182頁 / 著:妹尾ありか / 表紙:裏方(Endsville

ブランデンブルク発・日本行きの旅客機が「深海棲艦に遭遇せり」と残して上空1万メートルで行方を眩ませた。

一方、大規模風力発電農場に住む少女カレンは、ある日、風力タワーの中で自分とよく似た少女に出会う。

鼓動の音とともに転がりだす運命。

軍事作戦に適性を持たないと見做された「非適性艦娘」たち。 彼らは科学へ身を捧げ、獲得した新たな「力」とともに、第2のキャリアを歩み出す。

「禁じられた力」を持つ艦娘たちが織りなす、苛烈なるテクノスリラーSF、ここに開幕!

心造少女2 - Phoenix hjerte fører pigen til en ny verden.

2017年12月29日コミックマーケット93 既刊
頒布価格1,500円 / 書店委託2,314円 / 電子版500円
文庫304頁 / 著:妹尾ありか / 表紙:裏方(Endsville

記憶喪失の少女・カレン。その正体は陽炎型駆逐艦九番艦の天津風だった。

彼女は思い悩みながらも自らに課せられる四つの業務、非適性艦娘の調査・追跡・回収・解体をこなそうと奮闘するが、身に宿す特別な力を制御しきれず、失敗ばかりを重ねていた。

自信を失くしていた彼女はある時、同じ特別な艤装を持つ少女、時津風の苛烈な過去を聞いてしまう。

一方その頃、艦娘の非合法売買業者から海色機関が悪性変異した艦娘を回収した。その左手にはカレンと同じ刻印のある指輪が嵌められていて――

心造少女3 - Phoenix hjerte ville smelte den ensomme is?

2018年8月10日コミックマーケット94 最新刊
頒布価格1,500円 / 書店委託2,314円 / 電子版500円
文庫386頁 / 著:妹尾ありか / 表紙:裏方(Endsville

横須賀鎮守府、――それは、世界で初めて創られた、人類の水際防衛の最前線。

かつてそこに所属していた人類の指揮官たちは、妖精式解析機関の命じる「無人化」の方針に、艦娘たちとともに叛逆を企てた。

横須賀鎮守府に所属する初風。深海棲艦の鬼を圧倒する程の特別な改造と特別な指輪を与えられた彼女は、与えられた役割への苦悩と知らないはずの記憶に翻弄されながら、第十六駆逐隊を取り巻く陰謀に立ち向かう。

そして、彼らの左手に輝く謎めいた指輪の正体が、ついに明かされる。

〈妖精機関シリーズ外伝〉アカーシャの舷窓 - Finder for the Akasha

2017年8月10日コミックマーケット92 既刊
頒布価格1,500円 / 書店委託2,314円 / 電子版500円
単行本144頁 / 著:妹尾ありか / 表紙:裏方(Endsville

とある実験の為に構築された、公海上の人工島と通信が断絶した。実態調査に派遣されたのは〈妖精機関〉の曙と皐月。

海戦での使用を禁じられた〈生体艤装〉を持つ彼らの標的は深海棲艦にあらず、悪性変異した艦娘の成れの果てである。

表題作の『アカーシャの舷窓』のほか、『海の蜻蛉、妖精の幻』『ブルースフィア・サブマリンショウ』の全3篇を収録する、凄惨かつ幻想的なサイコポエティックSF短編集。――これは妖精が記述する、とるに足らない断章だ。

頒布情報

会場地図
日時・イベント

2019年8月9日(金)
コミックマーケット96 1日目

配置

東京ビックサイト
南1ホール・ス-31b「ありや」
コミケWEBカタログ・サークルページ

当日の頒布物一覧(2019/8/9)
  • 新刊『心造少女4』(2,500円)
  • 既刊『心造少女1』(1,500円)
  • 既刊『心造少女3』(1,500円/在庫僅少)
  • 既刊『アカーシャの舷窓』(1,500円)
  • ※『心造少女2』は見本展示のみです。
書店委託

※書店委託はメロンブックス専売で通販限定です。実店舗に足をお運びいただいても、店頭に在庫はありません。ご注意下さい。